「Magro」「釣り」と書かれたヨーグルトがプレーン味 in ローマ

飛行機から直結の階段を降りると、風が仔犬のようにまとわりついてきた11月中旬。夕陽を浴びた妻が天国にでもやって来たかのように目をキラキラさせている。無理もない。ここのところ数週間は体が凍てつきそうだったし、空も薄暗いことが多かったのだから。

ローマの滞在時間は2泊3日だが、宿に着くころには夜になっているので、ほとんど1日半という弾丸スケジュールとなる。そんなこともあり少し値が張ったが拠点となりそうなバチカン付近の宿をチョイスしていた。

 

バス車内のWi-Fiを使って明日の道順などの計画を立てていると、いつの間にか外は真っ暗になり、古都らしく道路は狭くなっていた。フロントガラス越しにはギッシリ渋滞する車。こんなところでバスの運転ができるなんて凄いなと感心していると、

「ヴァティカーン!」と運転手。

 

バスを降りると、「イタリア=スリ」のイメージを植え付けられている妻は僕の腰に巻かれてお尻の上に乗っかているポーチを見るなり、勝手に掴んで腹側にグルっと移動させてくる。

はいはい分かりましたよ、と言って歩き始めると、すぐに眩い光を放った巨大な建物が現れた。教科書やテレビなどで見ていたものよりもずっと存在感があった。

バチカン

さっそく足を踏み入れると若者やホームレス、物々しい装備の警官らがいた。明日、朝飯を食ったら、すぐに此処へ戻るつもりでいたし、チェックイン予定時間を少し過ぎていたので、そそくさと彼らの中を突っ切る。

 

ホテルを見つけるのはとても難しかった。何か看板でも出してくれているものだと思っていたら、玄関の脇にある表札に混じってホテル名が記されているのみ。

インターホンを押すと、ホテルスタッフの声が聞こえてきた。名前を告げるとロックが開いた。

階段しかなさそうだったから仕方なく大荷物を背負ってゆっくり4階まで上がることに。すると途中の踊り場にあった軽そうなドアのノブがガチャっと回って、開いたドアの中から人が出てくる。

簡素な玄関だなと思っていると、その中にはドアと重なるようにしてもう1枚のドアがあった。クローゼットのように手動の両開きタイプのドアだった。

備え付けられたガラス窓を覗くと、中には半畳ほどの小さなスペースがあるのが見てとれた。なんて味のあるエレベーターかよ、おい。

しかし、巨大バックパックを背負って乗ると、その場で体を回転させることが出来ずボタンを押せないことが容易に想像できたため階段を利用。

インターホンの声の主はオードリー・ヘプバーンみたいに可愛いお姉さんだった。丁寧な部屋の説明を受け、気持ちよくチェックイン。予約サイトで見た通りの部屋だった。

そのホテルはマンションを改装して造られていた。それに気づいたのはバルコニーへ出たときのこと。中庭を挟んだ目の前にはバルコニーがズラリだったからだ。

そのすぐ隣にはバチカンの「おぼっちゃま君」の頭のような突起部分も見えていた。なんだかローマの景観とそれを守ってきた人々の表裏一体を見た気がする。

外へ出て、お菓子とサンドイッチをスーパーで購入。ローマの物価もまあまあ高く、相変わらずの貧しい気分が続いたが、安くて巨大なポテチを買うことができて一気に心が豊かになった。

夕食後は明日の計画を立て、早めに就寝。

 

翌朝、代り映えしない服の自分に気が引けたが、1人しか常駐していないらしいスタッフはオードリーからイカツイ系のおばちゃんに変わっていたのでそれはそれでよしだった。

朝食はブッフェ形式。勢いよくパンとハムを皿に盛ってみたが、ヨーグルトが並んでいるところで思わず立ちすくんでしまった。

果物の写真が載ったパッケージもあれば、文字だけで書かれたシンプルデザインの物もあったのだけど、プレーンを食べたい僕はシンプルな方を手に取ったものの、完全イタリア語だったのでそれがプレーンだという確信をもてなかったのだ。

すると、おばちゃんがそれを見兼ねて言ってくる。

「それはPescaよ。」

「ん?Pesca?」と問うと、

「うーん・・・」と渋い顔をつくったあと「英語だとfishingね。」と言ってくる。

は?と思いながら釣り竿でキャストするジェスチャーをしてみせると、

「そうそう、fishing」とおばちゃんは頷く。

見ると、確かに蓋にはPescaと表示されていた。ヨーグルトとfishingの繋がりが分からないけど、もう一度パッケージをよく見ると、最も大きな文字で「Magro」とある。さらにその隣には変てこなロゴマークがあるのだけど、ここまでくると船の碇にも魚にも見えてくる。

「ほう、fishingですか~。」

と言って、そっと元あったところへヨーグルトを戻すと、

「なんで!?美味しいのよ!」とおばちゃん。

食後にフタを剥がしてみると、見た目はシンプルに白かった。ここまではまあ予想できた。が、恐る恐る口へ運んでみると、広がった味は「牧場の朝」に等しいフツーのプレーン。

こうなってくると、あまりに謎過ぎて「Magro」をイタリア語から日本語に変換してみたくもなる。

だが、google翻訳アプリの答えはカタカナで「スキニー」だった。こいつ、もういいわ、と思ってしまう。

 

予定通りバチカンへ。

向かう途中、どこまでも路肩に縦列駐車が続いている。しかも車と車の間隔というのが非常に狭く、どうやってねじ込んでどうやって抜け出すのか気になるレベル。だが、それを見る時間は我々にはなかった。

 

バチカン市国内へ突入。快晴の空に淡いベージュの建物が良く映えていた。

午前中のバチカン。日曜日の昼にここでローマ法王がお話するようだ。

 

感心していたのも束の間、10時にもならないのに建物の中へ入るための長蛇の列を発見。げんなりしながらも圧巻の景色にカメラを回していると、そばにいたはずの妻がいない。

辺りを見回すと、遥か遠くの方でツアー会社の勧誘らしきオッサンに捕まっている。面倒くさそうだし、妻にとっても良い英会話の時間になるだろうと考え、僕はしばらく知らんふりをした。

が、いつまで経っても終わらないので行ってみることにした。近寄るにつれて、話が終わらない理由が分かってきた。

「ナゼナラ 二ホン デ ゴネン クラシマシタヨー。イロンナ カイシャ アルケド ニホンゴ ワタシダケネ」

そして、どうやらバチカン内部を周るのは想定していた以上の時間が必要とのことで、今日行くべきか、明日にするべきかで妻は悩んでアレコレと尋ねていたようだ。

実はこのバチカン。今日我々が予定している名所巡りのスタート地点へ行くための通り道でしかなく、明日、4時間ほどで巡るつもりだった。

「名所巡りを4時間でやるのは無理だから、バチカンを明日にしよう。端折りながら4時間で周ろうよ。」

そう言うと、オッサンがすぐさま口を挟んでくる。

「ヨジカン デ バチカン ヲ ミマスカ? ソレハ トテモ ムズカシー オススメシマセーン!」

明日にすると言われて、逃げられると焦っているのだろう。

しかし、オッサンのツアーはファストパスで行列を飛び越えて入場できるということだったので時間のない僕たちにはこのツアーは好都合。逃げるつもりはない。

「お勧めできないかもしれないけど、僕らは明日の15時にはローマを発つんだ。しかも、まだローマの何も見てないから、バチカンは明日にするしかない。明日のを予約するよ。」

「ウーン・・・モッタイナイデスネ」

予約すると言っているにも関わらず、それほど嬉しそうではないところを見ると、単純に「バチカン推し」というか、本当に短い時間で周るのが損だということを伝えたかっただけなのかもしれない。

「でも、それしか方法がないんだ。」

「ワカリマシタ。」

僕らは事務所を見せてもらうことにした。

 

オッサンのあとをついていくと、僕らの方を振り返って、

「アナタタチ ニホンジン ダカラ トクベツニ ヤスク シマス」

と小声で言ってくる。

「え!?いいの?一番安いツアーなのに。」

「ハイ」

と言ってオッサンはまた歩き出した。

いい人なのかどうなのかはさておき、旅行中の勧誘との取引を僕はこれまで結構苦手にしていたけど、成立する瞬間はまあまあ好きで、もっとそういったことも楽しみたいと思った。

 

予約手続きを済ませ、地下鉄に乗ると、1駅目で長くてカラフルなスカートの女子が乗り込んできて、ちょっと他の人たちとは違い異様な雰囲気が漂わせていた。

ガン見していると、女子は小銭の入った箱を片手に、そしてもう片手にマイクを持ち中々の音量で歌い始めた。聞いたこともない音楽であり、上手いのかどうかも分からない。

そして、興味深いことにみんなダンマリを決め込んで見向きもしない。ああ、これがヨーロッパでスリをするなどで有名なジプシー民族か、と直感。けっこうえげつない手法であれこれやってるのをyoutubeで紹介されているのを見たことがあった。どうも彼らはヨーロッパ諸国の悩みの種らしい。

 

目的の駅で降りると、オードリー・ヘプバーン主演の「ローマの休日」で有名になったスペイン広場へ。僕は観たことがないのだけど、妻が大昔から興味をもっていたので行ってみることにした。

ここでアイスを食べるシーンがあるらしいのだけど、アイスの販売は見当たらなかった。その代わりにはならないけど、いきなりバラの花を手渡されて、喜んでいると金をねだられて困惑している夫人がいたり、やたらキスばかりしているカップルもいて中々楽しかった。

スペイン広場

 

30分ほどのんびりしたあと、今度は「トレビの泉」まで歩いた。トレビが何故有名なのか知らないが、着いてみるとスペイン広場よりも多くの人でごった返していた。テロ厳戒態勢なのかマシンガンのようなものを所持した警官がいた。

スリの名所でもあるようで、一目見てみたいと思っていた僕は懸命に探してみたが全く見当たらなかった。警官が恐ろしくてできないのかもしれない。

それにしてもそんな中、皆キスばかりしている。イタリア人って本当にイタリア人なのだ。

トレビの泉

 

パンとハムとMagroを消化したようで、腹が減ってきた。

適当にレストランへ入った。11時30分頃に席に着いたが、あっという間に満席となり、僕はピザを、妻はスパゲッティを食べた。

密かに楽しみにしていたのがイタリア人の「ボーノ!(おいしい)」を言いながら人差し指を頬に突き刺すポーズ。そう、CMやTV番組でおなじみのアレだったが、誰一人としてやらなかった。

「あんたの作るパスタの方が美味いわ。」と妻がボソッと呟いたとき、ピザはピザでアイスランドで食ったやつの方が美味いと思ったので、周りの人にとってもこのレストランの料理は「ボーノ」に値しなかっただけなのかもしれなかった。

 

ゴチになったあとは、コロッセオという円形闘技場へ向かう。

途中でチーズや生ハムの並んだショーウィンドウを見た。豚の頭もぶら下がっているというのに惚れ惚れする美しさがそこにはあった。

 

コロッセオは娯楽のために造られた猛獣と剣闘士が戦う闘技場。ざっと調べたところ、どうも、ものすごい数の人と動物が命を落とした場所らしかった。

剣闘士の殆どは奴隷。奴隷たちは猛獣だけが相手ではなく武装していない犯罪者との戦いもあったらしい。処刑である。

これを当時の支配者が作った背景には、円滑な政治のために市民の不満をガス抜きしたい、という狙いがあったようだ。

人権というものの概念が現代とは全く違っていたのだろう。

コロッセオ

 

今回、最も遠いところ、「カラカラ浴場」へ。入場は16時30分まで。てっきり17時までと思っていた僕らは16時35分着だったために入れなかった。外側から覗くだけでは何もわからなかったが、google mapで見た口コミはかなり良いものが多かったと記憶している。

カラカラ浴場

 

ホテルへ折り返す途中に「真実の口」があった。並べば写真撮影できるがそんな元気はなかった。格子の間から手を伸ばし屋外から撮影した。

真実の口

 

川に浮いている軍艦のような島。不思議に思って調べると営業中の病院だった。

テベレ川のティベリナ島

 

宿も近くなり、「晩飯は何がいい?」と妻に問うなり、「中華!」と即答してきた。どうもホテルのそばに中華料理店があるのを確認済みだったようで昨日から明日の晩飯を密かに決めていたらしい。

僕もサンドイッチやケバブ、ピザ、パスタという小麦生活から早く逃げたくて、競歩で向かった。

やっぱ美味かった。本当に米を欲しているときは運ばれてきた瞬間からもくもくと食べてしまいノーフォトとなる。

 

宿に戻ると、明日の荷物置き場のことで、悩んだ。デカいバックパックをホテルに預けると、バチカン観光後に戻らねばならないわけだが、そうすると向かうべき駅と逆方向になるのだ。

理想はバチカン付近のロッカーを使うこと。しかし、そんなものはググっても見当たらないので困っていた。

結果的に選択肢は2つ。

ホテルに預けて観光後に戻りこれまでと同じ駅から電車に乗るか、あるいはホテルのすぐそばにある電車の本数の限られた駅のロッカーを早朝に空きがあるかを確認し、空いてれば急いでホテルへ戻り荷物を持っていき、観光後に電車の到着に合わせてその駅に戻るか、に絞られた。

Uberという配車アプリに登録さえすれば楽に安く移動手段をゲットできるらしいのだけど、そのためには電話番号付きのSIMが必要となるうえ、この弾丸ツアー中に試すには色々とリスクが大きすぎた。

嫁が寝てからもあまりにも上の選択肢2つが面倒なことが気がかりで、Luggage Storage(荷物預かり)がないか英語で検索すると、簡単にHIT。

これまで日本人ブログに頼りすぎたせいで、英語で検索するという脳みそを失いつつあったのだけど、とても大事なことだと思い出してのこと。

stowyourbagsというロッカー名。イタリア各都市とバルセロナ、マドリードで展開。2つのロッカーをクレカ予約。コードをロッカーで打ち込む仕組み。

気持ちよく眠れそうだったが、あまりにも良い仕事をしたせいで、

「明日のツアー開始場所の近くでロッカー予約しといたぞ」

と寝ている妻をわざわざ起こし、ドヤってから布団に潜らないわけにはいかなかった。

翌朝はギリギリまで寝て、Magroを食わずにロッカールームに直行。

stowyourbagsという会社

 

そしてついにバチカン美術館に到着。

ツアー会社の人に連れられ、長蛇の列に並ぶ庶民の方々を追い越しながら「ビンボッチャマ」気分を脱却。

しかし、巡り始めてすぐにそこの所蔵量に恐れ入った。昨日のオッサンが言った通り、4時間で全てを楽しむのは不可能だった。

それどころか全体の3割程度に的を絞ったにもかかわらず、常に急ぎ足。

僕らが目的としていたのはミケランジェロの「最後の審判」や「アダムの創造」といった名画だった。

礼拝堂内が撮影禁止であることと、それらの解説を予め読んでいたことでかなりの欲をかきたてられたからだ。まあ、その程度の理由だから、その解説内容も半年近く経ってこれを書いている今、全く覚えていない。

覚えていることは礼拝堂へ着いた時、それまでよりもずっと人が多く、すし詰め状態になったこと。

そして、密かに撮影する人も多く、鋭い目を光らす監視員が大声を張り上げて注意する場面が何度か見受けられたことだ。

とくに「最後の審判」は圧巻の大きさで、1枚絵としてはそれまで見てきたものとは比べ物にならない凄みがあった。多くの人が写真を撮りたがるのも気持ちは分からなくはなかった。

 

こうして、僕らのローマ周遊は終わった。充実していた。

だが、またローマに来たいかと聞かれれば、「どちらでもない」と答えるだろう。

僕には文化遺産巡りは合わないと感じたからだ。楽しむにはお勉強が必要だったり、街歩きというのはアウトドアとはまた違った体力を要するから。

ここは添乗員付きバスツアーで巡るべきところなのだ。それならまた来たい。

もし個人で来ることがあれば、きっと評判の良い料理店や革製品店だけを巡ることだろう。

では、来てよかったか?と聞かれれば、「間違いなく良かった」と答える。そんな具合だ。

 

そんなわけで地方都市フィレンツェへ行き、少しのんびりめの旅をすることにした。妻と出会ったころ、「冷静と情熱のあいだ」という恋愛映画を見たのだけど、その舞台となった街だった。

映画では教会のドゥオモ部分にある展望台で竹野内豊とケリー・チャンが再会のキスをするラストシーンがある。街を一望できるその展望台がとても素敵なところだったので絶対に行ってみたい。

フィレンツェ行

 

以下、ローマで撮影した動画

 

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